結婚した男性を雪が積もった崖の上から突き落とす。こんな“婿投げ”なる慣習のある新潟県の松之山町。冬は3メートル以上も雪が積もるこの町で、パソコンの周辺機器メーカーを経営するのが長澤久吉さんだ。
Macと出合って“ヒモ”状態を脱出
「ベンチャー企業を成功させるなら早く嫁さんをもらうことですよ」と笑う長澤さんが電気部品メーカーを辞め、故郷に戻って会社を設立したのは10年前。しかし電気関係を中心に多くのアイディアを抱えて旗揚げしたものの、最初の2年間は売り上げゼロだった。「実家の温泉旅館で働くカミさんに食わせてもらってた」との言葉通り、“婿投げ”のモデルとして登場した当時の町のパンフレットの中で、長澤さんは“よろず発明家を目指す独創家”と紹介された。
そんなリュウドが軌道に乗り始めたのは4年前のこと。Macとの出合いがきっかけだった。「パソコンといえばPC-98の時代。98用の周辺機器メーカーはいくつもあったので、違うものをやろうと。DynaBookにしようかとも思ったんですけど(笑)」。
新製品のリリースを雑誌に送り、営業は問屋まかせでひたすら新製品作りに励む。いつしか社員は増え、売り上げも順調に伸びていった。
2年前、会社は廃校になった中学校の校舎へと移った。借りた“6教室”の半分は倉庫として使っている。
「東京にいる必要はない。ここの家賃は倉庫込みで2万円ですから、その分、価格競争ができるんです」
米国メーカーとの取り引きや外部のプログラマーとの打ち合わせも電子メールでOK。パソコンで展望を開いた長澤さんは今、ネットの恩恵をもっとも受けている1人でもある。